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名古屋新聞 昭和10年10月26日の記事


 名古屋新聞 昭和十年十月二十六日 奉祝朗話


八百年古傳のお囃子 秘曲世にいづる日

廃絶と傳ふ 神功皇后のはやし 獨り守る 鎌吉翁の喜び


事実上廃絶してゐた八百年からの古囃子が熱田神宮御遷座祭を機縁にふたゝび世にあらはれることになり、ひとり秘曲を守る七十三の老翁が今生の名残りと精魂こめてご奉納すべく連夜涙ぐましい練習をつづけてゐる、という奉祝挿話

熱田田中町の名物大山のお囃子として八百餘年の昔から宮の宿に傳はる「神功皇后の囃子」は時代と共に現在では廃絶され、わづか熱田神楽の長老加藤鎌吉(七三)によつて命賑を保つて來たが、この御遷座祭に大山車がくまれることになつたのを機會にはからずも古囃子が二十二年ぶりで仕掛人形の踊りにつれてかねでられる機會を得た一方この秘曲を傳へきく南区笠寺町荒川関三郎、大江町繰出蟹江鎌三の両氏は同翁に傳授方を懇請、入門を許されたので同曲にとつてはまさに一陽来復の形、鎌吉翁もこれで思ひおくこともなし、と晴れの日に御奉納できると喜び勇んでゐる、この古曲は三韓征伐のみぎり神功皇后が空針で魚を釣り神占をし給ふた故事にちなむ曲で笛を中心に太鼓を合の手に入れたお囃子で加藤翁はこの喜びを語る

このお囃子は私が子供の頃に笛の名人といはれた鬼頭惣助さんから懇切に教えをうけたもので永い間には知る者も絶え私一代で絶えるかと残念でしたが今度後をついでくれる人も出來、何十年ぶりに田中山の上から思うまゝに吹けるかと思へば全く若がへる思ひがします 【写真は加藤鎌吉老】


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