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唱歌譜の読み方と書き方 (狩野式) |
このページをWord書式にしたものをダウンロード => 唱歌譜の見方と参考楽譜 |
◆ はじめに 古来、神楽やお囃子に使われる笛の曲は、主に口伝えで伝承されてきました。これは、先輩の指使いを見て覚えるというかなり原始的なものですが、他に、唱歌(しょうが)譜と呼ばれる笛譜も存在し、少なくとも江戸時代からは、補助的に使われていました。唱歌譜は、笛曲のメロディを鼻歌のように歌うときの歌詞のようなもので、その歌詞からある程度、音程や指使いが連想されるように出来ています。 しかし、この「ぴーひゃららー」などのように書かれている唱歌譜は、地域・流派などによって記載方法が大きく異なっており、しかも同じ音程に別の言葉を付けたり、別の音程に同じ言葉を付けたりしている場合が数多く見られ、資料として唱歌譜が残っていても、それを元に曲を再現することはほとんど不可能であることが、大きな問題でした。宮流神楽が伝承されている地域にも、いろいろな唱歌が残されていますが、やはり統一性や再現性が無く、これまであまり重要視されて来なかったように思われます。 しかし、西洋音楽の五線譜にも、それとは別にドレミの言葉があるように、メロディを覚えるのには、歌うための言葉はあった方が良いことは確かです。そこで、教えるのに便利なように、古来の唱歌譜の平均的な表記方法を元にしながら、唱歌譜の言葉を理論的に組み合わせ、多少の妥協はありますが、音程と指使いとがきちんと1対1の対応になるように定義し、リズムをとるための音の長さをはっきりわかるようにして、構成のしっかりとした唱歌譜のシステムを作ってみました。 これなら、唱歌譜を見れば、知らない曲でも吹くことが出来るはずです。再現性があれば、その唱歌譜が後世に資料として残ったときにも十分に価値があるでしょう。また、音程だけでなく、細かな指使いもある程度表記できるところが、ドレミ方式よりも、さらに優れているところだと思います。 唱歌譜を書く人は、それなりに指使いや装飾音符に習熟していないといけませんが、楽譜を読んで吹くとか、歌詞として覚えて、そこから音程や指使いを思い出そうというレベルの人には、優しいようにしました。 ◆ 唱歌譜の使い方 言葉の一覧表 最初からこの表全体を覚えるという必要はありません。とにかく、1曲、唱歌を覚えましょう。ひとつ覚えてその曲が吹けるようになっていれば、あとはだいたいそれで類推できます。
言葉の母音について 同じ音程の音には必ず同じ母音の言葉が割り当ててありますので、言葉の母音だけで、だいたいの音程が類推できるようになっています。
言葉の子音について 音の高さが同じであっても、ヒャ・ヒュ・ヒョは何らかの装飾音があってやや目立つ音、ラ・リ・ル・ロはあまり目立たない音と考えてください。 下線について 楽譜では、下の手(2・3・0・#0・Θ・#Θ)と大甲音付近の音(7・8・A)に、下線が付いています。同じ言葉が別の音程に重なって割り振られていることがありますが、楽譜を見れば、下線のあるなしで判断できます。 甲音と呂音について 甲音はカタカナ、呂音はひらがなで書かれています。大甲音(カタカナ)や呂音の下の手は頻度が少ないので、パッと見た感じで、「甲音上の手(カタカナ下線なし)」、「甲音下の手(カタカナ下線あり)」、「呂音上の手(ひらがな下線なし)」のどれかを把握できます。 なお、8は大甲音に分類し、八の甲音ではないことにも注意してください。 重複で注意するもの(いずれも下線で区別します・j 実際には、6と3の区別が一番の問題で、5と8とAは高音でちょっと気になる程度、あとは大きな問題にはなりません。6と3を言葉上で区別したいときは、「上のヒャ」「下のヒャ」、または「左手のヒャ」「右手のヒャ」という言い方をします。 これは、本来はどちらかをチャとかシャなどとして区別したかったのですが、あまりにも現状から離れてしまうので妥協し、同じ音にする代わりに下線で区別しているわけです。
休符(休み) 四分音符の休符は点(・)で、きちんと拍数分表記しています。八分音符の休符は下線を付け、・ のようになっています。休符はリズムにとって非常に大事ですので、きちんと休みの数を数えてください。 ◆ 唱歌譜の書き方 普通・弱いというのは、音の輪郭の強さのことで、音の大小ではありません。弱いというのは、下打ちで切る音や、四分音符をふたつに分けた場合の後半の八分音符に出てくる短い音などのことを指しており、すべてラ行です。 5の強い音にはチとヒがありますが、アクセントのある第1・3拍(表拍)はチ、アクセントの無い第2・4拍はヒと区別します。四分音符をふたつに分けた場合の後半の八分音符に出てくる短い5の音は、経過音であればリ、かかり音であればチを使います。8のチ・リとは、下線のある無しで区別します。 5の音を下で切る指使い(左手薬指で第4孔を打つ)は頻度が少ないですが、結びなどで使う人もいますので、その場合は四分音符でもリを使います。 大甲音のA・8以外は、呂音・甲音の言葉は共通(楽譜上では、ひらがな・カタカナの区別があります)です。7付近の音で空欄のところは、すべて普通と同じと考えてください。 下の手(2・3・0・#0・Θ・#Θ・A)と大甲音付近の音(A・8・7)は下線を付け、それ以外の上の手は下線無しです。3と6、5とA・8、メ7と7は、譜を見れば下線のある無しでわかりますが、聞いただけで区別することはできません。(7は本当は大甲音ではありませんが、便宜上、下線を付けました) 2拍以上伸ばす場合は、リズムをとるために、その音の言葉の母音で2拍目以降を表します。例えば、5 5 と音を続ければ、上で切っていればチーヒーですし、下で切っていればチーリーですが、切らずに5 ー と伸ばせばチーイーということになります。 ただし、0・#0はフとウなので、区別することができません。このあたりは、あきらめることにします。 1の指使いは宮流神楽には存在しませんが、もしあれば4と同じヒュ・ルを使い、下線を付けます。 Aと8の弱い音は両方ともリですが、チリ・ヒリという組み合わせでしか使いませんので、見分けられると思います。 「かかり音」は、勢いをつけるために直前に置く短い音(八分音符)で、6の前にある短い5、3の前にある短い2の音、2の前にある短い#0・八、4の前にある短い2、が主です。かかり音は、短くても弱くはないので、普通の言葉の方を使います。 まれに、5の前にある短い6、2の前にある短い3、もかかり音として使われることがありますが、これらは区切り音との鑑別が重要です。 7付近の音はたくさんの指使いがあり、音程としては、 呂音では、六<0<#0≒メ七<八<七、甲音では、6<Θ<#Θ≒メ7<7<8、の関係があります。 なるべく音程が近いものは母音を同じにしたいというポリシーがあるため、7と8以外はウ行でそろえました。ただ、呂音の八が七より低いのに対して、大甲音の8は7より音程が高く、その特殊性から8だけイ行(チ・リ)としました。 休符は、点(・)できちんと四分音符の拍数分表記します。かかり音で前に休符がある場合は、・チや・ヒョのように八分音符の休符も使い、八分音符の休符は下線を付けます。リズムは、再現性にとって不可欠な問題です。 休符は四分音符はウン、八分音符はウと言うこととしますが、これはリズムがとりにくくてどうしても必要な場合だけ歌に入れるにとどめ、普段は心の中でリズムをとるだけとします。 前の音を短く切り上げて、その後ろに小さな休符を入れるような場合は、ツッ・とか、ヒョッ・とかのように前の音を跳ねるように書き、後ろに八分音符の休符(下線あり)を付けます。 通常は使わない例外的な指使いの音は、それに近い音(多くは少し高い音)の言葉で代用し、欄外にコメントを付けておきます。 ◆ 唱歌譜の例 カンタロウ系(亀崎・知立・豊田)の御神前、サイメ系(笠寺)のお天道の唱歌譜を用意しましたので、参考にして下さい。唱歌も、メロディーの解釈によって、意見が分かれることもあるのが、また面白いところです。 唱歌譜は、サイメ系は大太鼓の2つ目から行が始まっていますが、カンタロウ系は、大太鼓の1つ目から行が始まっており、2つ目の大太鼓の前に縦線が引いてあります。本来、リズム的には大太鼓の2つ目が太鼓パターンの始まりなのですが、カンタロウ系はその前から笛が入ることが多いので、このように書いてあります。 御神前 (数字譜+唱歌譜) 御神前 (唱歌譜のみ) 三みつ下がり (数字譜+唱歌譜) 三みつ下がり (唱歌譜のみ) 七間町 (数字譜+唱歌譜) このお囃子はオマケですが、唱歌譜を目で追ってゆくと、下線なし・下線あり・ひらがなの区別で、音程のアップダウンが何となく感じられると思います。 ◆ 最後に 著作権は私に帰属しますが、商用目的で無い限り、断り無く自由にコピーして配布していただいてかまいません。改変したものを配布することもかまいませんが、その場合は、オリジナルと改変した部分がきちんと分かるようにしておいて下さい。 この唱歌譜システムは、宮流神楽独特の指使いも関係しているので、一般的なお囃子笛の指使いとは、かなり違っている部分もあります。例えば、メ7と7は反対の方が良いかもしれませんし、 八や#0のような変な指使いは無いかもしれません。改変して使おうという方は、その辺りを適当に入れ替えていただければ良いかと思います。 |
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