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幸村氏(知立)・大府では、「新車」と「新車の裏」という曲は全く別々に存在し、それぞれ神楽の曲として演奏されます。しかし、亀崎では通常「新車」と言えば、幸村氏・大府で言う新車と新車の裏を続けて吹いてしまうものを指しており、幸村氏・大府の新車は、「新車の表」という言い方をすることが多いようです。亀崎の楽譜(現在版、間瀬版)でも、新車のところには19行の楽譜があって、(1〜9)+(3〜9)は表の吹き方、(1〜19)は裏の吹き方と記載されているだけです。
大府の長谷川佐一氏は表のみ・裏のみ・表+裏の3種類、知立の幸村元一氏は表のみと裏のみの2種類、八橋の高井錦一氏は表のみの1種類、亀崎は表のみと表+裏の2種類、の吹き方が記録としては残っています。
この新車(表+裏)は、有松という笠寺系の地域でよく演奏されているお囃子の曲を編曲したものと思われます。そのためか、笠寺系の地域には新車に相当する神楽の曲は見当たりません。最近、笠寺では、有松の吹き始めと吹き終わりの位置を変えた早目という名前の吹き方をすることが多いですが基本的に同じです。なお、笠寺には新車という曲があるのですが、これは津賀田神社の山車の道行に使われていた非常に長い曲で、亀崎系の新車とは全く関係ありません。
有松は、お囃子にしては比較的長い曲で、A(a+b)−A’(a+c+c)−B−A’’(a+c+b)
という構成をしています。これは起承転結の形式、西洋音楽的に言えば二部形式の構成であり、明らかに誰かが作曲したものでしょう。
新車の表部分は有松の7〜15行目に相当し、新車の裏の部分は有松の16〜20行目に相当する部分に表の最後の2行と裏の最初の1行を後ろに付け加えたものです。裏の部分の曲の構成から考えて、新車という曲の成立に関しては、有松の一部を編曲してできた表の曲がまず吹かれるようになり、それから有松の後半も含めた(表+裏)パターンが作り出され、そのうちに裏の部分だけ吹く地域も出てきたのではないかと想像しています。
新車の表は9行ありますが、2番は最初の2行を飛ばして3行目から吹きます。これは、1〜2行と3〜4行は同じフレーズであり、くどくなるので2番では片方をカットしたということでしょう。新車の1〜4行目は有松の7〜10行目に相当するわけですが、有松の方も繰り返しのフレーズになっています。
亀崎には、東組(宮本車)・石橋組(青龍車)・中切組(力神車)・田中組(神楽車)・西組(花王車)の5つの組があり、それぞれ特定の宮流神楽の曲と深い関係があります。このうち、田中組が新車で、神楽車の打ち囃子も新車を編曲したものとなっています。(もちろん、1〜19の表+裏の吹き方です)
知立では、最近、幸村氏よりも亀崎の影響が強いため、いつもは表+裏の吹き方で吹いていますが、巫女舞のバックで吹くときだけは、巫女さんが疲れないように、少しでも短い(3行分だけですが)表の吹き方で演奏します。 |