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幸村氏(知立)・大府では、「新車の裏」という曲は「新車」とは全く別の曲として存在し、それぞれ神楽の曲として演奏されます。しかし、亀崎の「新車の裏」は「新車」とほぼ同じ意味で、幸村氏・大府で言う新車と新車の裏を続けて吹いてしまうものを指しています。ですから、幸村氏・大府の吹き方の新車は、亀崎では「新車の表」という言い方をすることが多く、基本的に、亀崎では裏の部分だけを独立した曲として吹くことはないようです。
演奏音源で早川くんが吹いているのは、亀崎で言う「新車の裏」、つまり表と裏を続けて吹いてしまうパターンです。
この新車(表+裏)は、有松という笠寺系の地域でよく演奏されているお囃子の曲を編曲したものと思われます。そのためか、笠寺系の地域には新車に相当する神楽の曲は見当たりません。最近、笠寺では、有松の吹き始めと吹き終わりの位置を変えた早目という名前の吹き方をすることが多いですが基本的に同じです。なお、笠寺には新車という曲があるのですが、これは津賀田神社の山車の道行に使われていた非常に長い曲で、亀崎系の新車とは全く関係ありません。
有松は、お囃子にしては比較的長い曲で、A(a+b)−A’(a+c+c)−B−A’’(a+c+b)
という構成をしています。これは起承転結の形式、西洋音楽的に言えば二部形式の構成であり、明らかに誰かが作曲したものでしょう。
新車の表部分は有松の7〜15行目に相当し、新車の裏の部分は有松の16〜20行目に相当する部分に表の最後の2行と裏の最初の1行を後ろに付け加えたものです。裏の部分の曲の構成から考えて、新車という曲の成立に関しては、有松の一部を編曲してできた表の曲がまず吹かれるようになり、それから有松の後半も含めた(表+裏)パターンが作り出され、そのうちに裏の部分だけ吹く地域も出てきたのではないかと想像しています。
亀崎の新車(表+裏)のうち、裏だけの部分は全部で10行ありますが、1行目と最後の行はまったく同じフレーズで、8〜9行目の部分も表部分の最後の2行とほぼ同じです。1行目のフレーズは、最初の方も最後の方も2の音が続いていて抑揚があまりなく、間奏的な雰囲気です。
幸村氏(知立)や大府などで新車の裏の部分だけを独立して吹くときは、1〜9行目を2回吹いてお終いになります。
亀崎には、東組(宮本車)・石橋組(青龍車)・中切組(力神車)・田中組(神楽車)・西組(花王車)の5つの組があり、それぞれ特定の宮流神楽の曲と深い関係があります。このうち、田中組が新車で、神楽車の打ち囃子も新車を編曲したものとなっています。(もちろん、1〜19の表+裏の吹き方です) |