宮流神楽 曲の解説  前の曲へ 次の曲へ 上のページへ トップページへ
唐古・からうた・下がり葉・唐子の研究

はじめに
唐古(知立)・からうた(大府)・下がり葉(亀崎)・唐子(笠寺)は、メロディとしてはほぼ同じような曲です。とても良い曲なのですが、どの地域でもあまりポピュラーな曲ではありません。これは、地域によって一緒には吹けないレベルの違いがあり、それが普及を妨げているのではないかと考えています。そこで6人の名人の楽譜(ひとつは伝承楽譜)を作り、比較検討してみました。なお楽譜は、細かい洒落はカットしたアウトライン版となっています。
楽譜はこちら ー> karako_kenkyu16.docx (PCでないと上手く見れません)

幸村元一
幸村さんは明治37年生まれで、名古屋の大須で宮流神楽を習い、知立神社などで活躍された方です。

以下が音源から採譜した楽譜ですが、作曲者目線で見ると、もっとも整然としているというか、きちんとした構成を持っています。
1と2行目は全く同じ。
1・2行目最後の32八2*(=2八2*)は、3行目で2八 2八2*と受け継がれています。
4・5行目前半の565 3253 2 の音の形は、1・2行目前半と同じで、これも2拍ずれた形で受け継いでいるものと思われます。
5行目最後の2八六は6行目の最初でまた2八六と受け継がれています。
そして、8と9行目は全く同じ。

メロディラインとしてもきちんとした4拍子となっており、太鼓の関係も整然としています。
おそらく作曲された当初の状況をかなり反映している形ではないかという印象を受けます。




長谷川佐一
長谷川佐一さんは幸村さんよりも5歳ぐらい年上で、大府で活躍されていた方です。知立神社に顔を出していた時期もあり、幸村さんとはおそらく顔なじみだったと思われます。

3行目の後半以外は、幸村さんとほとんど同じです。問題は、3行目後半の八2八2が幸村さんと拍の表裏が全く逆だということです。それから、3行目の最後が4拍子としては2拍短いです。
この拍の表裏(4拍子の1・3拍と2・4拍)が一番難しい問題で、皆で一緒に吹けない原因となっています。
 2八2八 = 幸村・安東
 八2八2 = 長谷川・新亀崎・笠寺・(間瀬)

ただ、3行目3小節目の1拍目については、4拍子のリズムとして、1拍目の半拍後ろから入ると2拍目にアクセントが入ってしまい、ちょっと特殊ではあります。

また、3行目の最後が2拍短いことは笠寺と同じで、3行目後半は笠寺とよく似た形をしています。




安東和雄・文雄
安東和雄さんはもともと亀崎の出身で、亀崎の船橋政一さん(明治34年頃生れ、幸村さんとは名古屋で兄弟弟子)の弟子でしたが、転居により知立神社に出入りするようになり、幸村さんの後、知立神社で指導的な立場にあった方です。文雄さんは和雄さんのお兄さんで、やはり亀崎出身、知立神社でも活躍されていました。現在の知立神社の吹き方は、基本的にこの安東和雄さんの吹き方を踏襲しています。

私の師匠でもある安東さんにケチをつけるようで気が引けるのですが、3と4行目はおかしいです。文雄さんが太鼓を打っているときは兄弟で息が合っているように見えますが、3行目は途中で拍の表裏が逆転し2のところで締太鼓、4行目は大太鼓の裏で最初の5が入るのですが、再び表裏が逆転して最後の五のところで締太鼓になっています。お兄さん以外の人が太鼓を打つと、うまく合わないです。

また、3行目後半の32八(=2八)は、2回でなく3回繰り返しています。これは間瀬版も同じですが、それ以外の方は2回です。

1行目の最後が8になっているのは、誰かが洒落て格好よく吹いたものが伝わっただけで、大した問題では無いと思います。
 5 = 幸村・長谷川
 8 = 安東・間瀬・新亀崎・笠寺

4行目の八の音ですが、3拍分の長さがあります。新亀崎版も3拍ありますが、幸村・長谷川・間瀬は2拍で、普通に考えれば2拍の方が小節割には素直です。

6行目の最後が2拍短いですが、4拍分あると拍子としては素直ですがやや間延びした感じがあって、誰かが突っ込んで吹いてしまったものが伝わったのではないかと感じています。
 4拍分 = 幸村・長谷川
 2拍分 = 安東・間瀬・新亀崎・笠寺

9行目の後半が8行目と違って六*六*になっているのは、結びに移行するときに三二だと吹きにくいので変化したのかもしれません。
 六五三二 = 幸村・長谷川・笠寺
 六*六* = 安東・間瀬・新亀崎




間瀬版楽譜
間瀬版は、昭和44年に亀崎で発行された楽譜です。間瀬さんは船橋政一さんの弟子、つまり安東和雄・文雄の兄弟弟子に当たる方ですが、音源は無いので楽譜から作り替えたものです。

3行目の最初ですが、23が無くてすぐに555となっているのは少し変わっています。他の5人はもう2拍(23)がその前にあります。
また3行目後半は、2八が3回(というか4回)あるのは安東さんと同じ、ただ楽譜にはリズムが書いてないので、拍の表裏が2八なのか八2なのかはっきりしません。最後の休符から見ると新亀崎に近そうなので八2の方に分類しましたが、安東さんの兄弟弟子ですし、はっきりしません。

6行目の最後は3拍で少し変ですが、一応楽譜にはこのように書かれています。



新亀崎版
新亀崎版という新しい楽譜はあるのですがリズムの記載がはっきりしないので、潮干祭りCDの音源から直接採譜しました。ただ、その楽譜と同じと考えて良さそうでした。

3行目2小節目の235'2に関しては、長谷川・安東・間瀬も同じですが、このメロディラインだったら本来23が表拍であるような気がします。1・2行目の最初、5行目2小節目、9行目の最初にも同じ音形が出てきますが、その感じが自然だと思います。前半の555の後に1拍休みが無いことが、この後の八2か2八かという問題の遠因かもしれません。

3行目後半は八2のパターンです。4拍子のリズムにきちんと合っており、それなりに説得力があります。

4行目は真ん中付近で2拍余分になっており、八も3拍分あります。1〜2小節の流れから言えば、八は2拍にしてその前の6をカットした方が素直じゃないかなという気がします。

6行目の最後は、安東・間瀬・笠寺と同じく2拍短い。
9行目後半は、6*6*のパターンで、安東・間瀬・笠寺と同じ。・




熱田神楽笠寺版
笠寺は宮流神楽ではなく熱田神楽の地域ですので、あくまで参考データです。基本的に熱田神楽と宮流神楽は大太鼓の位置が2拍分ずれています。なお、#0は八と同じ音程です。

3行目後半は、長谷川佐一さんと同じパターンで、八2の方。
4行目の最後の六の音は、3小節目4拍目ではなく4小節目1拍目になっている。
7行目付近は2小節分ぐらい短く、熱田神楽としても太鼓が異例。
9行目は、8行目と同じ。




最後に
いかがでしょうか、どのパターンでやって行くのか悩ましいですね。その地域にすっかりはまり込んでいれば、それに従うしかないのですが。

私の個人的な感想としては、
基本的には、幸村さんのパターン。1行目の最後の音は、本来は5だけど8の方が格好いいかな。
3行目が、幸村さんにするのか新亀崎にするのかは悩ましいところ。

私自身は安東和雄さんの弟子ですから、安東さんの楽譜をベースにしながら、他の名人の楽譜を取り入れて補正したハイブリッド版を作ってみました。




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